2006年-1月

2006年11月30日(木)

パウル・クレー原稿書く。これは「とんぼの本」というシリーズに入るパウル・クレーの本のなかに、エッセイを書いてほしいといわれたため。「オルフェウスの庭」という一枚の絵について書こうと思った。昨日ずっと見ていたのはこの庭です。線が重なりあう画面のあちらこちらからこすれる音やふるえる音が響いてくる。聞こえる絵。あるいは、目に見える音楽。とても寒い。寒いな、と思っていたら、さーむーい、と庭で園子さんが唱和している。街なかへおりてってミソバターラーメン。餃子を園子さんと分ける。星条旗の映画をみる。編集のバラバラさと色調がイオー島。

2006年11月29日(水)

ずっと庭の絵を見て過ごす。隠居のような暮らし。誰も碁を打ちには訪れず、誰もやかんの語源を聞きにはこない。絵を見ているだけの隠居。晴れている。隠居の足だけが冷たい。庭を歩いているからかなあ。ちゃんちゃう、庭の絵を見てるんやないですか。隠居の自問自答。やかんと鍋を両手にもち、園子さん帰ってくる。ようやく隠居の連鎖がとぎれた。冷たい足から風呂にはいり、晩ごはんはめんたいこ鍋。豚肉や青梗菜がちょうどいい。干物。百合根。大根の漬け物。食後にスヌーカーをちょっとだけ見る。レコードをかけていると、園子さんが「これ誰ですか、かっこいいですね」といったので嬉しくなり、これはマーヴィン・ゲイというアメリカの男性とタミー・テレルというアメリカの女性が並んでね、と隠居風に解説をはじめたら園子さんカーと寝ていた。

2006年11月28日(火)

午前中から日経コラム。からだが伸びたりちぢんだりすることについて。伸び縮みしながら午後に終わる。からだの左下がくりぬかれたような感触。ずっと家のなか。野間宏を読む。園子さんタダイマーとタイマーのように帰ってくる。晩ごはんはカレーライス、グリーンサラダ、ホタテとエリンギのにんにく炒め。

2006年11月27日(月)

朝食おいしい。牛乳おいしい。いま思ったのですが、牛の乳だから牛乳という。そんならば鹿の乳は鹿乳と、犬の乳は犬乳と、猫の乳は猫乳(びょうにゅう)というのか。ロバはロバ乳か。ロバとは音読みだったのか! ボエー。少し休んで電車で新千歳空港。空港ロビーでおそろしい予告。松本上空は悪天候のため、羽田か名古屋におりるかもしれない。どうなるかわからないんで、とりあえず飛んで松本のそばまで行ってみる。羽田と名古屋やったらどっちが好き? わしはきしめんが食べたいから名古屋へおりよかなあ。ワシャワシャ。などとまぼろしのパイロットが無駄口をたたいているうちに飛行機は無事に松本空港へおりたフイー。空から見るアルプスは偉大だった。だって飛行機より高いんだよユッコびっくりだよ。乱暴な運転のバスで市内へ。タクシーで家にもどる。ウルリーの渡辺さんからいただいた紙袋をあけてみると鮭のハラス、干鱈、ホタテなどはいっていた。猫のように手をすりあわしお辞儀。道中で見ていたゲラなどダッシュで送り、ツイタヨーと牧場に電話。日暮れ頃、タダイマーと帰ってきた園子さんにただいまという。晩ごはんはシューマイ、湯豆腐、春菊のごま和え、蒸しブロッコリー、そしてすばらしい鰆みそ漬け。キョヘーと猫舞い。いつのまに漬けていたんですか。園子さんうつむいてニヤリ。

2006年11月26日(日)

朝食おいしい。別海のミルクおいしい。別海温泉ホテルの「なつかし館」へ行く。建物のなかに手製の学校手製の飲み屋手製の散髪屋手製の囲炉裏などあって驚嘆。ご主人の丹羽さんがこれまで一切ものを捨てないで作り上げた個人の記憶の地下壕。何千枚というドーナッツ盤はほとんどが放送用の試供品という謎のコレクション。大竹伸朗さんといい丹羽さんといい、別海にはこんなような意識の地下水が流れているのだと思った。丹羽さんと記念写真。そして牧場まで送っていただく。きょうは牧場の渡辺さんによる「トウちゃん、しんちゃんを語る」というイベントがある。しんちゃんとは大竹伸朗さんのこと。イベントの準備がすすむなか、黙々とカードにサインをする。イベントの最初は渡辺さんの話。牧場へついたばかりの大竹さんの様子。札幌から帰るとき、買ってきてくれたおみやげのパン。みなウルル。それから朗読。大竹さんが西別の駅に着いたときの心細さ。嫁たちウルルル。「さて次に」と司会のイソダさん。「今日のゲストのいしいさんに話をしてもらいましょう」。あ俺か。と立ち上がり、「全景」展を見ているとからだがうねって踊る、ということを実演してみせた。みなボヤヤ。女性三人のキャンディーズ演奏。そして高橋さんの偉大なる建築話。高橋さんのお話に喝采し、時計を見るとギャヒー、三十分オーバー。すぐにタクシーに乗らんといけん。お客さんみんなサイロの玄関で見送ってくれる。高橋さんと握手する。渡辺さん夫婦、高橋さんと記念写真。男前の少年が「いまいしいさんの本を読んでいるところなんです。それでさっき本人が出たからびっくりしました」。ウルル。ジェシ・デイヴィス。などといっている暇もなく、外で待っているタクシーに、靴も履かず、靴下のまま北海道の大地を踏みしめて駆ける。渡辺さんの奥さんがこれもってきな、と紙袋をくれて、なかにはおにぎりや鮭などのお昼ごはんやほたてやにしんなどが入っていた。まぼろしの猫あらわれ渡辺さんとイソダさんにニャーとなつく。猫はそのままにタクシーに乗って、中標津空港まで、というと別海うまれという運転手さんは「アー」といってアクセルを踏んだ。ふりかえると、サイロの前で、渡辺さん夫婦はタクシーが見えなくなるまで、えんえん高く手を振ったり、飛びはねたりしていた。猫ウルリ。だからウルリー牧場というのか。タクシーのなかで涙はボロボロ落とさず米粒をボロボロ落としながらおにぎりを食べた。牧場の皆様本当にありがとうございます。中標津の空港はおちついていた。意外に乗降客が多かった。札幌の丘珠空港は静まっていた。バスに乗り、札幌駅前の巨大ホテル。ついてすぐ眠り、起きるとまだ夕方。ひとりで札幌のお寿司を食べるなどという荒行は猫と園子さんのいないところではできない。八時まで手書きの原稿。百貨店の売店でちらし弁当を買ってくる。夜は日本酒を飲み、ウルリー牧場のことを考える。

2006年11月25日(土)

朝の十時に気がつくと羽田空港に立っている。北海道の中標津行きに乗るのはなんだか薄暗いフロアから。国内線の飛行機に乗るのはいつ以来だか思いだせない。いつだろう、いつだろう、と必死に考えていると間もなく北海道の大地が見えた。ヒューイ、トタン、と着陸。空港から別海へのバスは、乗り合いのはずなのに、乗っているのはひとりだけ。小高い丘の上に古タイヤが並べられている風景がすばらしい。ミルク。ミルク。ミルクの看板。別海バスターミナル着。着いてすぐミルク飲む。売店でパンを買おうとしたら、袋に値札がついておらず、まあ他のパンからしてだいたい130円くらいやないですか、というと、店員の女性はまじめに上司に電話して、正確な値段を調べだしてしまった。それは125円だった。タクシーでウルリー牧場へ。すばらしいサイロ。すばらしいサイロの屋上。渡辺さんご夫婦、イソダさん、タカハシさん。渡辺さんに、輸入したサイロの上端をぶったぎって、クレーンでしゃくとり虫のように運び、運び、運びした様子を説明してもらう。タカハシさんは上下揃えのスーツに「別海」の文字がはいったTシャツを着ている。とても偉大な風格がある。サイロの二階で全員で、えんえん大竹伸朗さんの話をする。ふと気づくと日が暮れていて周囲は闇。別海町内のホテルまで図書館のホリゴメさんに送っていただく。大浴場でぬくもり、晩ごはんは鮭やきのこの料理。日本酒でひとり酔っぱらう。廊下に出て、ドアに鍵をさしても開かなくなって往生する。ベテランのリネン係の女性、鍵を回しながら肘でガクンとドアを打ち見事に開けてしまう。

2006年11月24日(金)

九時前のあずさで園子さんと東京へ。子どものような服屋で園子さん将軍のようなコート。銀座線で新橋。尾久の両親、義姉と合流し、銀座のあさみという割烹へいく。キョヘー、なんたる仕事ぶりですか。そんなに蟹の甲をむいて。それから歌舞伎。団十郎。饅頭ろう。三年寝たろう。まわりの人は誰も寝ていなかった。団十郎の河内山。歌舞伎はいい大人がああいうことをやるのを、さらにいい大人が妙な格好でぞろぞろ見に来るのがいいのだとわかった。東京にいたら歌舞伎で家計が傾くかもしれない。尾久宅で就寝。

2006年11月23日(木)

連日の寝坊。午前中、キューバのゲラをめくっていたら、昼過ぎに園子さんチェに教わった匍匐前進で帰ってくる。休日なので半ドンだ! 陽気なのに外はなんて寒いんだ! 田舎家で新蕎麦をたべ感激。ビュウプラザというところで異様に待たされた。すべて人のからだが蕎麦のように伸びてからまっていた。だから順番が混乱したのかもしれん。イシイスポーツというところにいき、ズボンとソックスと、股引を買った。ぼくの名前もイシイというのですが。キョトン。本屋で真鶴と対談集とフットボール小説と雑誌を買った。山崎商店でワインと日本酒を買って帰ると四時半になっていただよ。晩ごはんは豆乳鍋の鮭鍋、マナガツオのつけ焼き、ごぼうと牛肉のきんぴら、れんこんのきんぴら。ウイーン、ウイーンと機械音をたてながら園子さん、ウイーンの雑誌を読む。こたつにカシミアだよ!

2006年11月22日(水)

寝過ぎた。飛ぶ教室の短い原稿。「聖女チェレステ団の悪童」という本を読むと、読書がドリブルであることがわかる。尾形さんから電話かかる。胃腸の調子、よくないねー、しょがないねー。アキラのようにずっと立っていてもビルから飛び降りても平気なからだになりたい。それは無理無理、と猫が笑っている。つぎつぎとビルから飛び降りる。イヤミですか! 私はドリブルされているんですか! 興奮して立ちあがると腰クネリ。ガックン。短い原稿なりに苦労し、日暮れ頃書きあげる。園子さん繭玉をドリブルし、クロネコ基地へループシュートを決めてから戻ってくる。晩ごはんは豆乳を投入鍋。アジのみりん干し。りんごとにんじんサラダ。れんこんのきんぴら。10時過ぎ頭から倒れる。

2006年11月21日(火)

好天だねー。朝から日経コラム。新潮社より文庫「東京夜話」とどく。これまで出た自分の本のなかで文庫になる意味がいちばんある本だと思った。長薗さんの解説までが「とーきょーいしいあるき」の作品で、蜂飼さんはその全体の時間と空気に解説をつけてくださっていると感じた。文庫という形にとじこめられている時間や出来事の曲折が想像もつかないほど膨れている本だと思った。自分にとって大事な本だと思った。園子さん松本園子あるきで帰ってくる。晩ごはんは、アジのみりん干し、セロリサラダ、れんこんのきんぴら、水菜と長芋とジャコのサラダ、きのことセロリと牛肉とピーマンの炒め物。眠い。武田泰淳の富士を読む。

2006年11月20日(月)

疲労コンパイ・セグンドがいい声で唄っている。それは頭のなか。外では雨が降っている。読売新聞の短編を送り、いろいろと連絡事項。足の裏が寒いよ。寒いよ。とだけ訴えつづけていたわけではない。でも寒いよ。夕方、外が一点暗くなり、ロバと怯えながら見ていると、園子さん風に吹かれながら、白土三平劇画のタッチで帰ってくる。セロリサラダ、青菜のごまマヨネーズ和え、長芋納豆、牛肉のにんじん巻きえのき巻き。お土産渡す。早々に寝る。

2006年11月19日(日)

10時の新幹線で名古屋。四日市。迎えてくれた増田さんとともにおいしいうどん屋へ。やはりけつねうろん。丼を机に打ちつけてゴンぎつね。午後二時からメリーゴーランドでレクチャー。舞台へあがるなり服を見て笑われたのは何故だ。あほの坂田が登場したような反応だった。直島、「全景」、夏目漱石やプラスティックでできたトンカツの話。サイン会はずいぶん早くすんだ。五時半から中華料理屋で打ちあげ。おいしい餃子、焼きそば、中華スープ、もやし。つぎつぎと食べるうちに、六時十分には出なければならないので、口からもやしをたなびかせて四日市の駅へいった。ボエー。六時二十分発の電車で名古屋、乗り換え十分。八時発のしなので松本。フイー。足がもげている。ホエー。園子さんが駐車場で唄っている。

2006年11月18日(土)

開館と同時に美術館。受付の女性に「エレベーターで三階までおあがりください」といわれ、エレベーターに乗って三階へあがる途中で地下へ飛び降りた。そのつもりがエレベーターで三階にあがっていた。エレベーターで一階へおりる。網膜、網膜。船の部品。ブヒヒーンとロバ興奮。シップヤードワークス船の舳先がこんなところにあるやないですか。子どもが広いフロアを犬のように駆けまわっているやないですか。子どもが走るのに監視のひとが笑っている展覧会というのも「全景」くらいだろう。地下におり、日本景にヨレヨレ。女神の自由の前でフト、からだが変なことに気づいた。女神像の高さにまで伸びているのだ。見た目のからだはふだんどおり170センチ足らずなのが、自分で見あげるくらいの高さにまで自分のからだが大きくなっている感じが確かにする。庭に出られるので庭に出てみる。オーからだが風船のように膨れていく。中野ブロードウエイの看板に跳ね返って戻る。ジョワーン。なんという展示なのだ。すすんでいくうち作品のサイズにともないからだまで膨張していくとは。ろばクイックイッ。猫クイックイッ。オーまぼろしの鮫が空間をすすんでくる。透明の波を残しながら遠い海のほうへ泳いでいく。午後にやっと最後のフロアまでたどりついた。そしてもう一周。エレベーターで三階までおあがりください。もう一周。エレベーターで三階までおあがりください。兄と代官山で合流。地下にはいった店で熱燗のお酒。つくね。焼き鳥、鶏の水炊きを食べた。六本木の美術バーへいった。大竹さんの話をした。すると犬が走ってきた。店内を駆けまわる犬。美術と犬。うろうろと六本木ヒルズ。ヒルズには人がずらずらといてこれらの人たちは夜ズだと思った。

2006年11月17日(金)

開館と同時に美術館。受付の女性に「エレベーターで三階までおあがりください」といわれ、エレベーターに乗って三階へあがる。三階、二階と、クイックイッとまた踊りながらすすむ。ヒヒーン、楽しいなあ。昼過ぎまでに一階の終わりあたりまですすんだ。午後からお茶。濃茶を点てるうち自分が練りこまれてくる感覚をおぼえる。四時に辞去し、青山のスパイラルホールで尾形さんと合流。みずうみのはいったCDRを渡す。すぐそばのお菓子屋で幼子のようなお菓子を買い赤坂のマオリーダー佐藤さんの事務所へ。それから恵比寿の居酒屋。ロックのかかるバー、歌謡曲のかかるバー。高橋信太郎くんも合流した。よく話しよく飲んだ夜。

2006年11月16日(木)

八時のあずさで新宿、東京駅、木場。そして東京都現代美術館。ここは宇和島ですか。大竹伸朗の「全景」。入り口のワニでもう涙出る。ジャキン、ジャキン、ジョワーン。ボエー。唄っているのは誰ですか。あ俺か。券を買い、受付の女性に「エレベーターで三階までおあがりください」といわれた通りエレベーターに乗って三階へあがる。あがったとたん、思わずスクラップ!といって顔をおさえる。最初のフロアはスクラップブックのショー。一冊ずつ表裏を見て歩く。そしてフロアはつづいていくつづいていくつづいていく。子供時代、学生時代、そして別海、ロンドン・・・。学生時代の途中ぐらいでからだの内側に、クイックイッと動くものを感じ、横ばいに歩いていきながら、どうしても腰のところで踊ってしまう。クイックイッ。外人の子供が走って逃げる。メモ用に、と開いておいたノートに鉛筆で落書きする。クイックイッ。絵を見ながら、からだの内側に感じた、絵のなかの流れを、鉛筆をもった指と全身でクイックイッと描く。ノートじゅうに模様ができ、ああ、これは目に見えない模写なのだ。楽しいなあ。まぼろしの猫クイックイッ。まぼろしのロバクイックイッ。みな踊り描き笑いながら見てまわる。閉館のアナウンスが聞こえたときはまだ三階からおりかけたところだった。三分の一もいってないハハ。明日から何日通えば最後まで見られるだろう。とにかくここは21世紀初の何かだ。何だろう。寝袋をもってきて泊まりがけで見たい。日暮れ頃、お茶の水のホテルで着替え、表参道へ。池田さんと合流。まるいちのゴールデンウイークイタリア屋台で大好評のフルカド氏、アベ氏らが働くイタリア料理店ドン・チッチョへ。途中で須貝さんと孝典も合流。鼻の下にシチリア風のひげがずるずる生えてきそうなほどおいしい。ここは新装開店した店で、前のお店からのシチリアンな常連客がいっぱいいた。魚はまるいちから運ばれていた。美術館の話を盛大にした。池田さんがデザインを担当している「全景」のカタログは1100ページを越えるらしい。ジョワーン。ボエーとうたいながらお茶の水のホテルへ帰る。

2006年11月15日(水)

たいへん天気よろし。朝から読売新聞の短編。銀座の虎について書いた。新潮の木村さんより電話。置いた受話器ですぐ池田さんに電話。置いた受話器でまた須貝さんに電話。置いた受話器でまた誰にかけようと思ったら思いつかずしかも廊下が冷えていたので悲しかった。夕方短編終わる。夕焼けのほうから園子さん手を振りながら帰ってくる。風呂にゴムのマットを敷くとオー足が冷たくない。マットを作ったひとにしめさばをご馳走したい。晩ごはんは、アスパラの菜花と茸と厚揚げの炒め、サムゲタン再利用スープ、ままかり酢漬け、長芋納豆、モツ煮込み。明日からまた股旅ですわ。猫がぞろぞろついてきて酔っぱらいますわ。ヨーレレッヒホ。

2006年11月14日(火)

わりとぬくい曇り。と思ったら雨が降って寒い。と思ったら風が吹いてぬくい。ホホウ、温暖前線ですか。ずっと日経コラム。寒くなったので自然に寒くなった話になった。風を背中から受けて園子さん帰ってくる。とって返して、ものすごく松本っぽい店主がいる広東料理屋で焼きそばとラーメンをたべた。それから「ナチョ・リブレ」という映画を見た。園子さんは笑っていた。よかった。

2006年11月13日(月)

驚いた。マイナス三度だった。ツートトツート。終日、各方面へ連絡や予約。CDRに、みずうみのテキストと、キューバの写真をそれぞれ保存し、河出とマガジンハウスに送った。木曜と金曜はお茶の水のホテルに泊まることになった。電車であちこち回るので太股をパンパンと叩いておかなければならない。なにしろこの一年、運動らしい運動はなにひとつしていない。キューバで踊ったのと、バスに乗り遅れて空しく10メートルほど走ったくらいかシュン。日々の労働で鍛えられた足を存分に生かし園子さんアクセルを踏みしめてギュイーンと帰ってくる。そして晩ごはんの鍋をあけた。オー昨日はこれを作っていたのか。サムゲタン。つけあわせは、四方竹と茸の炒め物、タコとレタスとわかめのサラダ、キムチ。韓国料理屋より充実している。プラス小アジのみりん干し。猫チョゴリでハングル。「コレラ」読了。

2006年11月12日(日)

朝から寒おすなあ。へえ、六度しかありまへんのや。家のなかを徹底して掃除。外ではハゲ坊主のぶどう畑に藁を敷くひとびと。よくよく考えてみたら藁敷きがすんだらもうその畑には来年まで入らない、ということだ。眠れカエルよ。園子さんは「半ドンのドーンといってみよう」といいながら昼過ぎに工場から帰ってくる。それから台所にとじこもる。なかを絶対に開けてはいけませんよ。ブルブル震えながら部屋でガルシア・マルケスの「コレラの時代の愛」を読む。園子さんみずから戸をあけて台所から出てくる。晩ごはんは牡蠣入りあんこう鍋。おいしい塩から。松本のキムチは韓国屋のキムチに限りますなあ。しかも切ってないやつ。

2006年11月11日(土)

早朝からようやっとみずうみに手をつける。そして夕方に終わった。よかった。園子さん夕暮れのなかを歩いてくる。晩ごはんは中華料理のれいざんでサメスープ、酢豚、シューマイ、えびときのこの炒められたもの。みずうみが終わりましたというとソレハソレハと園子さんはいってジャスミン茶のコップをチンとビールのグラスに打ちつけた。よかった。家にもどりウイスキーを飲みながら、ガルシア・マルケスの「娼婦たちの思い出」を読む。ようやくふつうに小説が読める読める読める。

2006年11月10日(金)

アー晴れている。お茶やっと再開。土曜日の稽古は九月から、金曜日の稽古は十月からすでに再開されていたのですが、みずうみが片付かなくてぼくだけ十一月にずれこんだ。気を引き締めて先生にご挨拶。初炭点前。手足バラバラ。濃茶をいただいたあと薄茶の点前。ふきよせの意味を知りなさい、と自らを叱る。午後四時に退出し、あずさ号のなかで足グワー。半年ぶりの正座だからしかたがない。キが違っているがしかたがない。松本の駅前で園子さんが出迎えてくれた。晩ごはんはカレーライスとグリーンサラダ。にんじんうまいなあ、ブルルッ。とロバがカレー食う。

2006年11月9日(木)

晴れてきもちいい。山くっきり見える。しかしいったい、どうしてトンボが七匹も家の天井に飛んでいるんだ! キューバの本の前書きを書く。園子さん指をくるくると回しとんぼを何十匹もつかまえながら帰ってくる。玄関先でいっせいにとんぼを放す。猫パクリ。晩ごはんは、二夜つづけての猫祭り。カレイ刺身、カレイ煮付け、サザエ、サバ煮付け、ねぎま汁、ほうれんそう。猫ホロリ。

2006年11月8日(水)

いきなり零度。アーもう、びっくりさせなはんな。しかし陽が出ればよく晴れてきもちいい。山きれいで、乗鞍までみえる。オーイ、乗鞍のバカヤロー! 乗鞍怒り、冷えた岩を投げつけてくる。ごめん、乗鞍ごめん。日中はずっと東京新聞のエッセイ。ピロスマニという画家の画集の謎について書いた。まるいちから魚届く。今日は猫祭りだ! いそいそとしめさば作る。作りながら猿田さんのことを考える。夕方、ピロスマニ終了。園子さん、乗鞍を手なずけて帰ってきて、魚を見てのけぞる。晩ごはんはカレイ刺身、サザエ壺焼き、しめさば、鮭のみそ汁。厚揚げ。ウワーンと猫泣き。カレイ刺しは塩とすだちだけで食べる。しめさばはしょうゆでなく、わさびを溶いた酢だけで食べるのがいちばんおいしい。まぼろしの猫巨大化して乗鞍をまたぎまるいちを目ざして歩きだす。そっちは日本海。

2006年11月7日(火)

晴れたり雨だったり。複雑な天候。九時頃ふっと視線をあげたら、工房にいるはずの園子さんが、下半身透明のまま、スー、と廊下を横切り、ベランダに出て干し柿を吊りなおし、またスーと廊下を横切って見えなくなった。日中はずっと日経コラム。毎週一本本州日本。夕方はギリシアの本など読む。ゲラゲラ笑いながら園子さん帰ってくる。きいてみると午前中に帰ってきたのは生き霊でなく実際に柿の紐をたしかめに戻ったのだそうです。よかった。晩ごはんは鮭と茸のホイル蒸し、オニオングラタンスープ、茄子の煮浸し、小アジのみりん干し、蓮根の豚肉いため。ドットとヘンドリーのスヌーカーを見る。風ウエー。

2006年11月6日(月)

どえれえ風だよ。柿の葉がきょろへんだよ。道路にまでこぼれた落ち葉をかいてヨムヨム原稿。昼に完成。それから画集など見る。晩ごはんは野菜豆腐しゃぶしゃぶ、長芋の千切り、ナスの煮浸し、小アジのみりん干し。テレビを見たら眠くなった。からだがテレビの電磁波に耐えられないのかもしれない。ウエー、ウエーと風が鳴っている。

2006年11月5日(日)

えれえ風だよ。柿の葉がてえへんだよ。朝からザクザクと落ち葉をかいて、昼までヨムヨム原稿。午後はブラック・ダリアという映画を見にいく。最後のカラスに大笑い。女優が助平な顔だった。富豪一家の顔が破裂していた。とてもおもしろい映画だった。ジェイムズ・エルロイはどう思ったろう。小雨のなかトンカツ屋へ行き、ずいぶんひさしぶりにトンカツを食べる。外で食べるトンカツをおいしいと思ったのは生まれてはじめてかもしれない。

2006年11月4日(土)

9時過ぎのスーパーあずさで新宿、高田馬場。駅前で大学生のふたりに迎えてもらい、早稲田大学の大学祭へ。教室で話す、ときいていたので、30人くらいの前で話すものと思っていたら、300人だときかされて驚いた。階段状になっている大教室だった。直島にいったときのホットな話、小説を書いているときと書いていないときの言葉のちがい、被服生活について、小説と他の表現分野の根本的なちがい、生活に自由さを吹きいれる方法、尊敬する表現者、といったようなことをきかれて話す。大学祭は呼び名通り一種のお祭なので、会場全体がフワフワと沸きたっているような陽気さがあって、その空気をやりとりされる声がふるわせたりかき乱したりするのがおもしろかった。皆さんありがとうございます。時間をオーバーして話しすぎて、タクシーに飛び乗ったらもう時間がなく、「ウーン、危ないね」とつぶやきながら最短コースをぶっとばしてくれた運転手のおかげで、発車10秒前に5時発のスーパーあずさに飛び乗ることができた。運転手さんありがとうございます。「消えゆく言葉」読んでいるうち松本に着く。園子さんに出迎えてもらう。晩ごはんは大根と鶏の炊き合わせ、茄子の浅漬け、千枚漬け、きのこの炊き込みごはん、すっぽん汁。ぬる燗二合。

2006年11月3日(金)

朝からヨムヨム原稿。ずっと。ふと振り向いたら工場にいるはずの園子さんが玄関に立っている。その手には包丁がにぎられている。これは、園子さんがダークサイドに引きずり込まれたためでなく、工場で柿をむくための包丁を取りに戻ったのだった。よかった。一シーズンで千個以上の柿をむいて干し柿にする。連載のはじめというのは知らない海へ出て行く感じがしてたのしい。終わる日がいまから楽しみだ、というのは、「しんじさん、今回の旅行でなにがいちばん楽しみですか」とニューヨークに行く前園子さんにきかれ、「帰りの日」とこたえて呆れられたのと同じことです。なんでそーなるの? と甲高い声でいいながら、園子さん半ドンで帰ってくる。そして、めんたいこマヨネーズ談義をする。午後もヨム書く。夕方、酒屋で日本酒、ウイスキー買う。「消えゆく言葉」の地を訪ねて、という本を読む。今年読んだ本のなかでも特におもしろい。アボリジニやインディアンのなかで、いまはもう十数人、あるいは数人しか話せる人のいない言語の話されている場所を、カナダ生まれの詩人が訪ねる、というノンフィクション。スコットランドに近いマン島という島でだけ話されるマン島語のエピソードを読んだ。すばらしかった。晩ごはんは、さつま揚げ、ブロッコリーとカリフラワー蒸し、れんこんやにんじんのきんぴら、王子肉。日本酒のぬる燗をのむ。プロヴァンス語のエピソードを読みながらウイスキー二杯。

2006年11月2日(木)

朝から直島漬け。町の歴史のことはなんでもきいてくらはい。体調は、出発前のようなグラグラな感じ。午後は直島原稿書きはじめる。なかなかよう進みまへん。日暮れ頃、お邪魔しゃーす、といって園子さん帰ってくる。晩ごはんは、飛竜頭の野菜餡かけ、すっぽん汁、ほうれんそうのおひたし、長芋の千切り、鯖の味噌煮。ウイスキー二杯。

2006年11月1日(水)

なんばの服屋でセーターを探した。あった。そして園子さんは百貨店でお土産や食材を買った。なんばの駅前は四角なのにマルイという名の巨大ビルが建っていて風景がかわった。道頓堀沿いをてくてく歩いて以前小野くんといったうどん屋で園子さんはカレーうどん、ぼくはきつねうどんを食べた。この組み合わせがこれまでに何百回繰り返されたことでしょう。新大阪から新幹線で名古屋、名古屋からしなので松本へ。着いたらどえりゃー寒い。猫たち蒸発する。駅前の中華料理屋でシュウマイや八宝菜を食べる。タクシーでこたつの似合う家に一週間ぶりで帰る。ロバよ! 猫たちよ! シーン。ウイスキー一杯。