2002年3月


2002年3月31日(日)
朝七時起きで京都へ。最寄りJR駅の天王寺から、京都駅まで一本でいけびっくり。関西空港からの線が京都へのびたのです。それから嵯峨・嵐山へ。清涼寺釈迦堂のまわりをカメラもってうろちょろ。撮影すべて終わって、三条縄手の古代裂屋「今昔にしむら」さんへ。ご主人ご推薦の清水焼専門店「楽只苑」へ。みほれるようなとっくり、お茶碗のかずかず。青磁ってほんと、ピンキリですんやねえ。四時五十六分ののぞみで新横浜へ。地下食品売り場でとんかつを買い、三崎でキャベツをかたかた千切りにする。

2002年3月30日(土)
朝四時起き。桜木町から新横浜へむかい、のぞみ号で大阪の実家へ。会ったこともない祖父の五十回忌なのです。両親は、親戚のみなさんと昔ばなし。こないだ亡くなったおばさんのはなしもたくさん。昔の白黒写真アルバムがあって、なんだか写ってるひとがみな上品そうにみえた。まあ、今がひどすぎるもんな。電車にはさるまでおるし。夕ごはんはふたごの弟、両親とで水菜大量の鴨しゃぶ。大阪の水菜はうまいうまい。去年いったミナミの鍋屋「たわらや」の、ご主人のすごい芸をおもいだしました。またいきたいな。

2002年3月29日(金)

こまかな雨がふりおちる。日中は創作。それと、ツタヤ・オンラインのためのショートストーリー。先日ここでも紹介した「電車でさると遭遇」ばなし、そのつづきです。たぶんひとつき後にネット配信されます。おたのしみに。夕方、横浜にでて理論者の芳本さんとうちあわせ。新刊「麦ふみクーツェ」の装丁について。原稿がもうできていて、ぼくはのんきにかまえ、あとはほかの作業がいろいろすすんでいってる、っていうこの期間が、ふふふ、いつもなんともいえずたのしいのです(悪趣味)。関内の県民ホールで柳家小三治独演会。村松さん、しんこさん、園子さんと合流。「うなぎの幇間」と「宿屋の富」をきく。小三治あいかわらずすばらしい。とくに、わけもなく怒りだすきちがいじみたひとを演じたらまちがいなく世界一。落語のあと中華街へ。安西肇さんおすすめの店。ショーロンポウ、鶏肉カシューナッツいため。ピータン豆腐。かにのつめなどなど。満腹をかかえて夜中の十二時、伊勢佐木町のカプセルホテルで就寝。

2002年3月28日(木)
日中は創作。なんだかすごく眠い。黒田硫黄のまんが再読。「セクシーボイス・アンド・ロボ」から昔の「大王」まで。やはり、すごくおもしろい。宙に浮いて墨汁をふりまいている感じ。っても、わかりませんね。夕方、アメリカの古いドラマ「ペーパームーン」をやってました。映画でテイタム&ライアン・オニールがやっていたやつ。娘役がデビューしたてのジョディ・フォスターで、これがめちゃくちゃかわいいんです。モーゼ役も芋ライアンよりかずっとくたびれてていい。わーい、毎週みるドラマがやっとできた。これでテレビっ子と自称してよいでしょう。夕ごはんはお肉屋さんのギョーザ。十八個たべる。キャベツの千切りが連夜の登場。マリナーズの長谷川みたい。

2002年3月27日(水)
日中は創作。こしこし働いていると、お向かいのるなちゃんとめいちゃん、その友人ゆうちゃんがやってきてうちのなかを爆走。「女のけいさつはこわいんだよ」とかいいながらぼくのまわりをぐるぐる駆けまわっている。どうやらぼくを泥棒にみたて、捕り物をしていたようです。夕ごはんは、まるいち魚店がお休みなので、ぶた。ぶたのしょうが焼きは網でつくると香ばしくできあがります。キャベツ千切り(立ってる!)、いかなっとう、菜の花のからし和え。

2002年3月26日(火)

午前中は田代さんの病院でお勉強。って医学の勉強じゃなく、田代さんの「手品部屋」にこもってマジック関係の蔵書をよみあさる。手品師の口上がほんと勉強になった。朝から小雨がふり、そのなかを田代さん、お母様、ぼくの三人で、自動車に乗ってお花見。北本には日本五大桜のひとつがあるのです。蒲桜という樹齢八百年の木。実物は、息がもれるほど立派で、二本三本とくっつけあったようなそのかたちは、不死身をほこる遠い貴族みたいでした。それから荒川のうなぎ。すごくおいしい。田代さん、お母様、ほんとうにおせわになりました。

そうだそうだ、湘南ラインの車中、じつは、とんでもないことがあったんです。むかいの席にね、さるが乗ってたんです。ええ、さるです。ほんものですよ。なんとかタマリンって種類のちいさな洋ざるが、かごにもはいらず、女の子のひざでひどく跳ねてるんです。なのに、女の子は寝てて、まわりのひとは電子メールや読書にいそがしくて、ぼくだけなんです、さるに気づいてるらしいのは。「さるですよ、ねえ、さるがいますよ!」ぼくはでも、ずっと口をつぐんでいました。次の駅まで、どれほど遠かったことか。ぼくはだんだん、あのさるは自分にだけしかみえてないのか、自分は気がふれてるんじゃないだろうか、とひどく不安になりました。さるは鳴いています。くるくるとトリみたいに。やがて電車は駅につき、お客がおおぜい乗り込んできました。さると女の子はその向こうにみえなくなりました。

三崎について、さかな店まるいちへ。いさぎ(いさき)の塩焼き。まぐろのみりん干しをサービスでいただく。トマトとパセリ、ポテトサラダにねばねば納豆。あのさるはいったいなんだったか。

2002年3月25日(月)
日中は創作。ツタヤ・オンライン用の原稿。今回は「目のみえない元バードウオッチャーのはなし」です。夕方から、日本ドクターズ・マジシアンズ・クラブ代表の田代茂さん宅をたずねる。日本における手品の若きオーソリティです。横浜から湘南新宿ラインで、新宿、大宮を経由し北本駅まで一本でいく。だいたい、一時間半ほど。北本のおそばやさんは、すごく立派で、ごはんもおいしかった。裏山は千坪五百万円。そばやさんの庭にはたぬきがでます。たぬきは手品はしません。それから喫茶店で、古いヨーロッパのマジシャンについて、いろいろ興味深いおはなしをうかがう。入手困難な海外の資料も貸していただく。田代さん、こころより感謝いたします。夜は田代さんの病院でとめていただく。だれもいない病室にひとり。こわくなんてありません。ここは内科と、おもに整形外科だから、おばけのでるわけはないのです。

2002年3月24日(日)

午前中は原稿、お昼から横浜へ。東急ハンズで、額縁えらび。うちには「ランディ・ジョンソンの左手の特大写真」「ランディ・ジョンソンのポートレイト」「山本容子さんにいただいた『にぼし』の版画」などなどがある。これらそれぞれに、ぴったりの額縁を注文しました。夕ごはんはスパゲティナポリタン。横浜で買ったパン。サラダほうれんそうのバルサミコソース。それに、蒸した鳥やなんかのもりあわせ。赤ワインで酔っぱらう。ナポリをみても死なないよ。

2002年3月23日(土)
朝起きると、なんだかかぜ気味。薬を飲んで、園子さんと衣笠山公園へ花見にでかける。ここは横須賀市にあり、三浦半島でもよくしられた桜の名所だそうです。京急バスにゆられて一時間。おりてから、ずっと坂道をのぼる、のぼる、のぼる。これはもう花見じゃなくハイキング、いや登山。衣笠公園じゃなく、衣笠山公園だった意味がよおくわかりました。薬のせいで頭がぐらんぐらん。花見、お酒いらず。頂上の展望台に着くやすぐ下山。京急バスで三崎へ。夕ごはんは、そらまめ。ブリ刺し。アスパラトマト。幻のさかな「くろ」のあらで炊いた大根。かぜ、ふいっと治る。

2002年3月22日(金)

お茶の稽古はお休み。家で創作です。やがてしとしとと雨がふりだす。いい音の雨です。冬とはもうずいぶん雨音がちがう。あたたかな土地に水をまくような雨。夕方、兄から電話がある。いま、上海にいるとのこと。相談したい一件があったので、ファックス番号をきく。が、近所のファックス屋さんに、外国はやってないよ、といわれる。しょうがないです。ものかきでファックスもってないぼくが悪い。夕ごはんは、かますの塩焼き。アジのめざし。さやいんげんのごまあえ。肉屋さんの焼き豚に白ネギ。

2002年3月21日(木)
日中は創作。すごい風つよい。お昼に、高台にのぼったところのお寺でかんたんな花見。桜はもう満開です。ここは「桜の御所」といって、源頼朝が「ここに桜植えなはれ」と、京都弁ではないとおもうけど、命じたところ。三崎にはほかに椿の御所、梅の御所なんかがあるそうです。頼朝、風流なり。夕方は読書の時間。窓辺のお昼寝スペースで新潮クレストブックスの「ウオーターランド」(グレアム・スイフト)読み終える。すばらしく充実した、破天荒な小説でした。みなさんも買って読みなはれ。夜は「はこふぐの肝」ホイル蒸し。はこふぐって知ってます?よく浜辺なんかに打ちあがってる、おなかの四角いさかな。まるいちさんいわく「この肝はほんとにうまいよ」「ええっ? 死なないんですか?」「はこふぐはふぐじゃないの。かわはぎの仲間なのよ」もちかえり、おなかをさいて、なかの肝をとりだしねぎと味噌であえてなかへもどす。そして、三十分ほど蒸し焼きにする。ぐわあ、ものすごいくさい。くさくてすごくうまい。この世で最高のお酒のつまみは、ウオーターランドな味でした。それとかますのお刺身! ミニあじのひらき。そらまめ。大根千切り。頼朝よだれだらり。

2002年3月20日(水)
朝から創作。佐藤さんたちでつくったマオマオ本を、魚屋さん、酒屋さん、不動産屋さんにさしいれ。帰ると、不動産屋さんの奥さんが、大量の干物をもってきてくれる。あじ五枚、塩さば、さんまなどなど。マオマオが干物に化けた! 午後も創作。晩はいかなっとう。サザエ壺焼き。干したての塩さばに大根おろし。ほうれんそうごま和え。ミード望遠鏡を近所へもちだし、すばるやぎょしゃ座を観望。

2002年3月19日(火)

朝から創作。お昼にまぐろのづけをつくっていると、お向かいのめいちゃんが、ともだちのじゅんや君を連れあそびにきました。じゅんや君は近所のお寿司屋「三浦そだち」の息子です。引っ越した晩、きたところね。うちじゅう駆け回るふたり、階段の穴をみつけておおはしゃぎ。「あっ、トロだ」「かわいい!」うちにあるプレイステーションの「トロと休日」で、三人であそぶ。三人で、まぐろ丼をわけてたべた。午後も創作。夕ごはんは、三崎名物「めといか」と大根の煮物。えび天。ししとう天。えりんぎ天。まるいち食品おすすめのミニいわし刺し。たっぷりの大根おろし。三浦そだちは、たった三月そだっただけでもずいぶんとぜいたくです。

2002年3月18日(月)
早起きして川沿いをあるいていると、ひげのおじさんが釣りをしてるのにでくわした。以前あったことがある、このかたはホテルに所属する菜園の責任者。「ひげさん」という愛称で、オーナーさんも「あのひげが」「ひげはねえ」と親しみをこめ呼んでいたものです。「みてていいですか」「もちろん」といってるそばから竿がしなり、二十センチくらいのやまめがくねりながらあがってきます。「いわなよりやまめは、用心深い。ほらあの岩陰に、でかいやまめがいる。つっつくばかりで、えには食いつかない」「え?なにもみえませんが」「でも、いるんだよ」ひげさんは、流れる川のどこがどの魚のなわばりか全部知っています。さざなみの細かな変化から、そこに川魚が潜んでいる、と見分けるのです。「今夜のおかずだよ、このやまめは」とひげさんはいいます。「支配人から、でかいいわなを頼まれているんだけど」お昼にまっすぐペンション群をつっきり、東北道、首都高、湾岸線から横横道路をとおって三崎へ。まるいち魚店で、めといか、まぐろのお刺身。結婚したての店員さんに「お皿とか、コーヒーメーカーだとかいただいてありがとうございます。えび、おまけしておきます」おおきなえびを十匹いただく。お皿とかは、このページのデザイナー、佐藤さんにもらったものです。皿がえびに化けた! 山の幸につづいて海の幸。大根といか煮、まぐろ刺し、えびの姿焼き、くわえて春キャベツのゴマ和え。こころのなかの猫、大満足。

2002年3月17日(日)
湾岸線、首都高、東北自動車道をとおって那須高原へ。以前取材でおとずれたホテル「二期クラブ」へ。那須って「オルゴール博物館」「3D水族館」「こびとの森」「ペンション・ショパン」なんてものばかりとお思いのみなさん、それはまさにそのとおりだ。だからぼくは、じっと目をつむってそれらをみないようにして、二期クラブに着きました。二期クラブは日本でも有数のナイスなホテルで、敷地内にぐねぐね小川が流れ、雑木林のあちこちにふきのとうが顔をだしています。ここからどこかへいく、ってホテルじゃない。もう、ずっとここにいたい、って場所です。部屋は全部独立した小屋みたいになってる。のっぱらのなか、木々のあいだに、ぽかんと露天の温泉がある。温泉にはいったあと、高くから吊されたぶらんこに乗りました。部屋で着物に着替え、レストランへ。山菜の前菜もりあわせ(うさぎのテリーヌとか)、新牛蒡とフォアグラのスープ、ますの焼いたやつ(なんて名前だったか)、那須牛と、敷地内でとれた野菜。豪華絢爛。レーザーディスクで「黄金狂時代」をみて、いよいよミード望遠鏡を三脚につけ、よっこらよっこら、真っ暗な川土手をのぼる。のぼりきったとこにテニスコート。やみの闇。みあげるとほんものの星空。アルクトゥールス、スピカ、ポルックスなどを観測。ミードの操作はなかなかにむずかしい。脚がさむくなってきたので部屋にもどると、ホテルから夜食としておにぎりが差し入れされてあった。

2002年3月16日(土)

午前中、モノマガジンのためのプラネタリウムイラスト。お昼から、自動車で逗子、葉山へ。逗子ってはじめていった。すごく街らしくて、ファンシー感があって、まるで東京のどこかみたいでした。自由が丘とか原宿とか。逗子の本屋で「天文ガイド」を買い、葉山でパンを買う。でっかい夕陽が伊豆半島へとしずんでいく。うちにかえって、ひらべったい魚のてんぷら、実家からおくってもらったふきのとうのてんぷら。水菜のおしたし。

2002年3月15日(金)
午前中、仕事がたてこんでいるのでお茶にはいけず。かなしい。この日いけないと三週間あいてしまうのです。三崎で練習しよう。午後から浅草。皮膚科の薬をもらい、整骨院でからだのメンテナンス。ちょっとだけギャラリーefに寄り、新宿ヨドバシカメラで三脚を買う。それから吉祥寺で園子さんと合流。ギャラリー人(ひと、じゃないですよ。じん、と読みます)で、早川純子さんの展覧会をやっているのです。トリツカレ男の装画をかいてくれたかたです。ギャラリーには新潮社の須貝さん、ビリケン出版の津田さんもいらしていた。おおぶりの版画、立体作品、どれも奇妙にほのくらくって、灯りをさがすようにみいってしまう。以前、モノクロ作品は買ったので、今回はカラーの版画を購入。雨降りの窓際で、馬が、ただいる、って版画です。すばらしい。須貝さん、園子さん、津田さんと近所の八丈島料理店。おいしい揚げさかなととうふ、今年初ゴーヤ。ゴーヤっていいなあ。おくれてやってきた早川さんといれかわるように退出。園子さん運転の自動車で三崎へゴー。

2002年3月14日(木)
弟宅で起床。克典どうもありがとう。名古屋市科学館でプラネタリウム。ここは日本で現在もっともふるい、カールツァイス四型の投影がみられる。ぎしぎしときしむ投影機。最新型の翌日に超ベテラン機。ただ、解説員の語りはすばらしい。ハッブル天文台についてのプログラムがおわったとき、胸がじんとしました。しばらく居残って、いろいろたずねる。ここでも投影のまねごとをさせてもらう。時間があまったので愛知美術館でポンペイ展。すてきなモザイク画。新幹線にのり、横浜でしゅうまい、サラダ、きりぼし大根を買ってかえる。へとへとで、めまいをこらえながら口へはこぶ。

2002年3月13日(水)

午前中、豊川稲荷見物。ここは禅寺なのに、きつねさんが狛犬のように睥睨し、参拝客はお経のうしろでぱんぱんと柏手をうっています。ボランティアの解説じいさんに「ここはいったい何ですか?」ときくと、「豊川さんは、むずかしい。日本でいちばんむずかしいね」といわれる。「お寺なのに鳥居がありますね」「ああ、鳥居はお寺でもあっていい。鳥居の横をご覧。まんじがかいてあるだろう。あれは仏教系鳥居のしるしだ。鳥居はもともと鳥をとまらせ、弓矢で討って奉納するための止まり木だ」。でも、禅寺に討った鳥を奉納したりするかなあ。お昼すぎ、モノマガジンの遠藤さんが豊川につく。静岡のミノルタ工場へ。ミノルタ社は世界有数のプラネタリウム投影機メーカーなのです。最新の機械ジェミニスターをみせていただく。すごい星空。天の川を再現するのに、これまでの機械はぼんやりした帯をスライドで映していました。それが、ジェミニスターだと、恒星板にレーザーで二十四万個の穴をあけて投影するのです。その自然さたるや、ものすごいものでした。ぼくはブースで投影解説のまねごとまでさせてもらった。ミノルタのみなさんありがとう。夕方から名古屋へ。エレベーター営業マンの弟と合流。牛筋みそ煮込み、ちくわ料理、そばめしをたべる。ぼくが今後そばめしをたべることは、おそらく永遠にないでしょう。

2002年3月12日(火)
モノマガジン連載取材のため、愛知県の豊川へ。新横浜にいくだけでへとへと。やってきた「のぞみ」に飛び乗ったところ、豊川〜名古屋間の料金を追加徴収される。ぼくは豊川を名古屋より先とおもっていたのです。なので、名古屋からとんぼ返りし、豊川にいく電車賃もよけいに払った。大損です。午後五時に三崎をでて、ホテルについたのは十一時。近所のラーメン屋で、せっけんくさいギョーザとぬるい湯麺をたべる。大浴場はよかった。

2002年3月11日(月)

たまった原稿をかく。佐藤さんの黒服、よくよくみると、おばさんの、あるいは正太の灰がまっしろについていました。佐藤さんごめん。クリーニングにだしておきました。夜はいかを買い、さといもと炊きました。こもちのやりいかです。からだのなかには、銀色のつぶつぶがいっぱいで、正太とはまったく逆でした。お酒をぐいぐい飲みながら、レイモンド・カーヴァーの「ささやかだけれど、役にたつこと」をおもいだしていました。お葬式があったあと、きまってぼくはこの短編をおもいだします。

2002年3月10日(日)
朝からセレモ大山でお葬式。またもや受付。富田林の斎場でさいごのお別れ。お棺の窓にはスヌーピー、おばさんの顔、生前おばさんが大好きだったしゃべる人形の「正太」。この正太は、なかにコンピュータとミニスピーカーがはいっていて、それが外の動きに反応してはなすわけですが、このなかみが、お棺のふたにひっかかってしまらなかった。なのでカッターでおなかをきり、なかをとりだして収めたのです。へなへなの正太。真っ白なおばさん。コードだらけのコンピュータはいとこのかばんのなか。いったんセレモにもどりお弁当をたべたあと、富田林にとってかえしお骨あげ。木の箸、竹の箸。富田林から新大阪へ向かい、新横浜経由で三崎へ。なんにもたべずに寝ました。

2002年3月9日(土)

黒スーツに白いゴム靴といういでたちで、のぞみ号にのり大阪へ。住吉の実家で、名古屋在住の弟、母と会い、大阪狭山市のセレモ大山へ向かう。大阪ではなんでも略するのが好きで、「大山」もひょっとして「大阪狭山」を略したのかもしれない。セレモの会場でおばさんのお棺と対面。スヌーピーのお茶碗に一本箸が立っていました。お通夜の受付。香典の保管。十時過ぎに住吉にもどり、こどものころかよっていたお好み焼き屋「たぬき」で明石焼きとぶた玉をたべる。十二時がすぎたころ、東京在住の弟が、近所の駅からまっすぐ黒い服でくる。

2002年3月8日(金)
午前中は創作。お昼から東京でお茶のけいこ。二時について四時半に辞去。新宿で青山ブックセンターの高頭さんと待ち合わせ、代々木の佐藤さんと合流。日本料理屋で、焼酎をのみながら、いろいろと打ち合わせ。夜中の一時頃、店をでて弟に電話をする。大阪のおばさんがついさきほど亡くなったとのこと。夜は佐藤さんのうちに泊めていただき、黒いスーツと白シャツ、黒ネクタイをひとそろいお借りする。

2002年3月7日(木)
日中は創作。もう、どんどんあったかくなる。いちばん寒いときに引っ越してよかった。耳慣れない鳥の鳴き声がするので、窓をそっとあけてのぞくと、青色のるりかけすが電線にとまっていました。息をのんでミニ望遠鏡をとりだし、音のしないようピントをあわせます。合ったその瞬間、るりかけすはいなくなりました。きれいな鳥は視線に敏感です。ひさしぶりにナスマーボをつくる。それと菜の花。八百屋のおばさんに「うちなんかマーボナスの素でつくっちゃうよう」と笑われました。

2002年3月6日(水)
日中は創作。午後、光文社の吉野さんくる。三崎ははじめてだそうで、コートがずいぶん暑そうでした。初がつお、かさごと大根のにつけ。八百屋さんのたくあんに、たくあん好きの吉野さん感激し、夜九時ごろの電車で東京へ帰る。

2002年3月5日(火)

起きて仕事。急に寒い。柳家小三治が高座ですすめていた、EMという脱臭剤をトイレやこんろにふりかけてまわる。ツタヤ・オンラインの原稿。これはみなさん、DOOZというメールマガジンに登録すると、毎週おくられてくるんだそうです。携帯電話の配信サービスですな。i-modeだとショッピング、その他だとエンターテインメントという項目から登録ページにいけるそうです。そうですばかりで申し訳ないですが、ぼくは携帯電話をもっていないので、これはもうしようがありません。母から電話。漫画「ヴァガボンド」をおくったお礼。夕ごはんは、かさご一匹からあげ。皇室のかたがたの口にしかなかなかはいらないという珍魚、金頭もまるあげに。びんビールがうまし。

2002年3月4日(月)

日中は仕事。引っ越して以来、ずっとうちの角にとめてあった自転車が、ようやく撤去される。おまわりさんはどこもスローモーね。その点三浦市役所ははやかった。今朝電話で事情をはなしたら、「じゃあ二十分で」「え?」「いらっしゃいますか」「ええ」ほんと二十分でとりにきたからね。拍手拍手。夕方、またもやめいちゃん、友人のかなちゃん、るなちゃんらが絵を描きにくる。二階の仕事机では、こわいことになりそうなので、一階のこたつを遊び場として提供する。みんな描きあげた絵を一枚ずつぼくにくれた。明日もくるよといってました。晩ごはんは、お向かいさんにいただいたあじ(刺身と塩焼き)、まぐろのたまご、肉屋さんの特製焼き豚、ひじきに納豆。三浦のたくあん。おなかいっぱい。

2002年3月3日(日)

夕方むかいのるなちゃん、めいちゃんが遊びにくる。ぼくの仕事机でふたり並び、絵の具でご近所の絵を描いている。愉快な姉妹。うちじゅうにある桃の枝を、一本ずつ、姉妹にプレゼント。桃の節句ですからね。高野湯にいくと、出しなにニューバッカスの佐藤さんがはいってきて、やあいしいくん、と手をあげる。晩ごはんは、えびの網焼き、はまぐりの茶碗むし、ひじき、ほうれんそう、鯛一匹をまるまる炊き込んだ「鯛めし」。ヴィヴァおひな様。

2002年3月2日(土)

午前中仕事。お風呂場の電灯が、非常にまずい状態になってるのを発見。防水加工されてるはずの傘に、深さ五センチほども水がたまっている。危険。電気屋さんも「こんなのみたことがない」とふしぎがってる。傘にあいたすきまに、水蒸気がついて、長い月日をかけてたまっていったらしい。風呂場の電灯なんて、ふつうみあげないものですからね。傘ごと電灯を抜き、天井には大穴。当然お風呂はつかえず、この日よりしばらく銭湯生活。近所の高野湯にいくと、ニューバッカスの佐藤さんがいて、よう、いしいくん、と手をあげた。晩ごはんは豪華。ほたての網焼き(でかい)、かれいの煮付け、ブロッコリーのごまあえなど。

2002年3月1日(金)
午前中新宿へ。東急ハンズで脱臭剤など買う。うちは簡易水洗、現代式ぽっとん便所なのです。お昼にルミネの青山ブックセンターへ。「トリツカレ男」五十冊サイン。今回も一冊ずつちがった動物の絵がかいてあります。午後はお茶のけいこ。新宿で桃の花を買い、銀座のバー「ちこて」へ。逗子に住む「おかあさん」と女性バーテンダーさんにさしあげる。品川で園子さんと合流。おなかぺこぺこ。三崎には深夜つき、ポパイ食堂で八宝菜、上海やきそばをたべる。すっごくおいしい。

ごはん日記でおなじみの
「まるいち魚店」
▼新刊 発売中▼

●「四とそれ以上の国」(文藝春秋)より発売中

いしいしんじ

【PROFILE】
作家。大阪生まれ。現在、三浦半島の三崎と信州の松本に在住。著書に小説『ぶらんこ乗り』『トリツカレ男』『麦ふみクーツェ』『東京夜話』(新潮文庫)『プラネタリウムのふたご』(講談社文庫)『ポーの話』(新潮社)『みずうみ』(河出書房新社)など、エッセイ・対談『その辺の問題』(中島らも共著/角川文庫)『人生を救え!』(町田康共著/毎日新聞社)などがある。お酒好き。魚好き。メカおんち。きれい好き。

いしいしんじの水洗コーナー
2009.09.10
アトリエダンカン「トリツカレ男」
湯浅湾 港
主演の原田郁子×いしいしんじの対談です!
natalieの特集記事はこちら>
【最近の仕事 2/18更新】
▼ 出版予定 ▼
●単行本「赤ずきん」文いしいしんじ 絵ほしよりこ
(フェリシモ出版)
▼ 出演・催し物など ▼

●冬のメトロ大學「蓄音小説の会」
講師 いしいしんじ


第一部「その場小説」/第二部「蓄音ライブ」

前半、ステージの上で僕が小説を書きながらそれをライブハウスらしい爆音でマイクで読んでいきます。鉛筆を削る音や紙がこすれる音も拾います。
後半は、ブルース、ロックンロール、ジャズから得体の知れない音源まで、20世紀の様々な音楽の、オリジナルの音源であるSP盤を、最強の再生装置「蓄音機」でかけまくります。たぶん「レコード」に関して持っているイメージが爆発します。(いしい)

場所:京都クラブメトロ
日時:2月24日(水) 7:00PM 開場
7:30PM開講→9:20PM終講予定
入場料:1500円(1DRINK付き)
詳しくはこちら >>
ご予約メールはこちら >>
※公演日、お名前、メールアドレス、希望人数を明記の上お送り下さい。

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●いしいしんじの花まつり
@曹洞宗 萬亀山 東長寺


日時:4月8日(木) 開場19:30/開演19:45 
会場:曹洞宗 萬亀山 東長寺
東京都新宿区四谷4−34 TEL: 03-3341-9746
丸ノ内線新宿御苑・四谷三丁目駅/都営新宿線曙橋駅 各駅より徒歩7分

【内 容】
「その場小説」と「蓄音機」の二本立てです。まず、お経を詠んでもらったあと、小説をその場で書きながらマイクで読んでいく、ということをやります。どういうものになるか、その時になってみないとわかりません。原稿のコピーを一枚ずつ、来場した皆さんにさしあげます。それから、ブルース、ロックンロール、ジャズから 得体の知れない音源まで、20世紀の様々な音楽の、 オリジナルの音源であるSP盤を、 最強のタイムマシーン・蓄音機で聴いていただきます。「レコード」とは、こういう音がするものだったのか、と驚愕することうけあいです。
(いしい)

入場料:1500円
ご予約メールはこちら(住吉智恵)>>
お問合せ:東長寺 03-3341-9746

▼ 連 載 ▼
●「自転車日和」(辰巳出版)にて
エッセイ「自転車A面B面」
●「京都新聞」夕刊 第1・第3月曜日にて
「京都猫文字日記」 こちらでご覧いただけます>>
●「真夜中」にて長編小説「雪」
●「読売新聞」にて「本のソムリエ」(不定期)
●「クロワッサン」にてエッセイ「ああ驚いた」
●BAR FLOWにて小説
「みち子の叫び」(CLIPPING 310141)
スクラップブックを使った佐藤理との共同作品
「祝い酒」(POSTER 141310373)ポスターを使ったOSDとの共同作品
ほぼ、月一回連載中

BAR FLOW
港区赤坂8-13-19インペリアル赤坂一番館地下B102
TEL.03-5474-1885
(18時から26時まで営業、日祝休み)

▼ 寄稿・書評・コメントなど ▼

●週刊文春9月11日号に書評 
「四人の兵士」ユベール・マンガレリ著・田久保麻里訳
●別冊文藝春秋四月号にて短編小説
「渦」
●芸術新潮4月号にて紀行エッセイ
「バルザックの家とフジタの家」
●考える人春号にて海外小説
ベスト10アンケート+ドストエフスキー『白痴』エッセイ
同人誌「イルクーツク2」に小説
「塩浄瑠璃」

●別冊文藝春秋1月号に小説「峠」
●芸術新潮12月号にエッセイ
「踊るきのこ 南方熊楠の菌類図譜」
●週刊文春12月6日に書評
「灯台守の話」 (ジャネット・ウィンターソン著・岸本佐知子訳)
●別冊暮らしの手帖
「わたしの好きなインテリア雑貨」
にてエッセイ「わたしと本棚」
●かまくら春秋11月号にて
エッセイ「野性のエレキ」
●エスクァイア12月号にて
エッセイ「ハワイをやる」
●新潮社「波」11月号にて
「ジョン・アーヴィング『また会う日まで』刊行記念座談会」
●「圓太郎馬車」(正岡容著・河出文庫)に解説
●本の雑誌8月号にてエッセイ
「私のオールタイムベスト10 ばさばさと「めくって」きた本たち」
●飛ぶ教室夏号にて
短編「リキテンシュタインの法律」
●「西の旅」夏号にて短編小説「船」
●「パピルス」8月号にて短編小説「小包
●「ナンプレファン」8月号にてエッセイ「自分でも呆れる思いこみベスト9」
●東京人6月号にて座談会
「作家と画家、街の歩き方」
鬼海弘雄×大竹伸郎×いしいしんじ
●銀座百点五月号にてエッセイ「タッちゃんとカッちゃん」
●新刊展望五月号にて対談「『みずうみ』の水面と水底」(デザイナー・池田進吾氏と)
●ビッグイシュー日本版
69号にてインタビュー
特集「わからないからおもしろい」
全国のホームレスが駅前などで一冊200円で売っています。110円が販売者の収入になります。 
●「パウル・クレー 絵画のたくらみ」(新潮社・とんぼの本)にエッセイ「オルフェウスの庭で」


【e-mail address】
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【mao55編集部からお願い】
上記メールアドレスで、いしいしんじさんへ連絡をとられる方はメールのタイトルを「mao55編集部【いしいしんじのごはん日記】」と入れてください。「はじめまして...」、「○○と申しますが...」、「ご無沙汰して..」、「至急...」、「会ってもらえませんか」などのタイトルはジャンクメールと処理される場合がありますので、お願いいたします。

【主な著作】

●「三崎日和-いしいしんじのごはん日記2」新潮社より発売中
●「東京夜話」新潮文庫より発売中
●「いしいしんじのキューバ日記」マガジンハウスより発売中
●「いしいしんじのごはん日記」新潮文庫より発売中
●「雪屋のロッスさん」
メディアファクトリーより発売中
●「人生を救え!」
(町田 康 :いしい しんじ)角川文庫より発売中
●「人生を歩け!」
(町田 康 :いしい しんじ) 毎日新聞社より発売中
●「トリツカレ男」
新潮文庫より発売中

坪田譲治文学賞受賞作
●「麦ふみクーツェ」
新潮文庫


●「ポーの話」
新潮社

●短編集
「白の鳥と黒の鳥」
角川書店

文庫版「ぶらんこ乗り」は、新潮文庫の100冊にはいりました。
●『ぶらんこ乗り』
新潮文庫

●『絵描きの植田さん』
ポプラ社


●『プラネタリウムのふたご』
講談社


第18回坪田譲治文学賞 受賞作品
● 『麦ふみクーツェ』
理論社

●『トリツカレ男』
ビリケン出版)

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いしいしんじさんの著作本はこちら】


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